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【氷川教授の「アニメに歴史あり」】第11回 純黒の闇表現

1月9日に発売される「妖獣都市 Blu-ray BOX」(東映)では、解説書の総論を執筆している。菊地秀行の伝奇小説を川尻善昭監督が緩急自在、ハイコントラストかつスタイリッシュなアクション感覚で映像化した1987年のOVAだ(一部劇場でも公開)。大人向けのエロス&バイオレンスを濃厚に描いた点で画期的な作品となった。魔物との激闘を実写映画以上のリアリティでとらえ、古くからある「伝奇」の文化を今日の都市空間へ投影し、真っ正面から描きぬいた点で、後世への影響も大きい作品である。  川尻監督は、それまで「アニメ絵」か「劇画タッチ」ぐらいしかなかった時期――非常に成熟した印象のアクション描写や、モノトーン、ハイコントラストの処理を多用して、都市の暗部で繰り広げられる「闇ガード」と魔界の者たちの死闘を活写した。北米や香港でも大ヒットとなり、多くの映像作家や俳優に影響をあたえた事実も、切れ味鋭い映像を見てみれば納得できるであろう。  続いて2月6日には、同じ原作者・監督コンビによる「魔界都市<新宿>Blu-ray BOX」もリリースされる。その解説書にも書いたとおり、こちらはジュブナイル小説が原作なので、エロス表現などは若干抑制されている。ただし、切れ味鋭い映像センスは共通。やがて国際的には「攻殻機動隊」シリーズと同等かそれ以上の高評価で受け入れられた伝奇時代劇アクション「獣兵衛忍風帖」(93/英題「NINJA SCROLL」)まで続く、川尻アニメの美麗なる映像世界は、この2作で確立し、観客層を獲得したのである。  さて今回は4Kリマスターによる製品化である。諸事情でなかなかリマスターされていなかったが、遅れた分「4K」という永続性のあるデジタル原版が製作されたことは非常に喜ばしいことだ。  そして、その作業用サンプルで気がついたことがある。リマスターによって素材感がより明瞭となった結果、「セル画上の黒」と「背景画(紙)の黒」が違って見えたのだった。紙のほうは黒レベルが若干だが浮いて見える。PC再生ゆえの特性もあるし、製品ではなじむよう調整されるはずだ。最終的にはモニタ上でのガンマ値次第だと思うが、それで思い出したのが、「アニメにおける黒ベタ表現の難しさ」であった。  「妖獣都市」では、キャラクターにブラック(BLカゲ)を必ずと言っていいほど入れ、背景にも暗部を大面積で置くなどのコントロールによって、全体的に「ハイコントラスト」な画づくりをしている。それは「闇の世界との闘い」を前提とした表現であるが、御法度とされてきた純粋な黒を多用した点でも画期的な作品だったのだ。  もともとセルも背景も「黒の表現」は非常に難しいとされてきた。アニメーション撮影台の上ではガラスに素材をはさんでライトを当てるわけだが、このとき「黒とガラス」の組み合わせが「鏡の効果」となって反射しやすくなる。さらにホコリやセル傷が黒の上では見えやすくなるし、ネガ傷がつくと「白」にプリントされて目立ってしまう。だから70年代、宇宙を舞台とするアニメの多くは「宇宙空」という言葉を使って「青」にしていたし、ガス状の色味を置いたりして反射を抑止していた。「宇宙戦艦ヤマト」(74)はリアリティを求めて黒ベースに濃いブルーの宇宙を採用することで差別化を図ったが、その分、盛大にゴミもよく見えるので、この話が裏づけられる。  その辺が変わってきたのが、1979年の「劇場版 銀河鉄道999」(りんたろう監督)の時期からだった。原作者の松本零士は「黒ベタ」を多用することで知られる漫画家で、特に「黒ベタの中にメーターがズラリと並ぶ」という背景の描画手法はアメリカのSF映画「ブラックホール」(79)に「松本メーター」として影響をあたえたほどだった。劇場空間は客電を落とした「闇の世界」である。りんたろう監督はその闇の中でこそ、この黒ベタ感覚が効果的だと考えたのか、随所に適用したのだった。  「光あれば闇がある」という神話的な言い方がアニメ作品にも多いが、考えてみれば逆である。宇宙空間も劇場空間もデフォルトは「闇」のほうだ。そこにわずかな光が射し込むから、人間は動物的本能で光を求めるのである。そして光の当たらない「闇」の部分は、「何があるのかないのか」と脳内で想像を膨らませる部分である。ホラー映画で多い「闇の中で何かがうごめく……怪物かもしれない」という表現は、人間の妄想する力がエネルギーとなって成立するものなのだ。  そう言えばデジタル制作時代が始まった当時、「デジタルならば純粋な黒が描ける」という理由で企画されたのが、サンライズ制作によるオムニバス短編「闇夜の時代劇」であった。その一方で、「DVDは黒に潰れやすく、映画のホラー表現が成立しづらい」とも聞いた。純粋な黒が描ける一方で、闇の中にある微妙な明暗の差違を表現するためのビット深度が足りず、黒に転びやすくなったのだ。2Kから4Kとなっていく時に併用される「HDR(ハイダイナミックレンジ)」も、こうした明暗差、階調をもっと繊細に表現する機能である。  そして筆者が愛好する有機EL(OLED)のモニタも、「純粋な黒」が表現できることを特徴としている。シャッター式の液晶だとどうしても光が漏れるために表現しづらいのである。「黒」の表現と、その周辺のデリケートな「暗部の階調」がいかに大事か、お分かりいただけるだろう。  やはり「無」を表現する「黒」は重要なのである。死を見つめるからこそ生が活きるように、「ゼロの色=黒」があるからこそ、あらゆる色にも意味が生じる。川尻善昭監督作品を支える美学のひとつ「黒の表現」を出発点に、そんなことを連想してみた。

「SSSS.GRIDMAN」の商品展開が加速 「メガホビEXPO」と「ワンホビギャラリー」に見るフィギュアトレンド

2月と7月に開催される「ワンダーフェスティバル」は、当日版権フィギュアの展示即売に加えて、各フィギュアメーカーの新作発表の場となっています。  この「ワンフェス」以外の新作フィギュアの発表の場というと、問屋さんの展示会やプライズフェアなどがありますが、それは一般には未公開。一般向けにオープンになっている大きな展示会というと、5月と11月、ちょうど「ワンフェス」の合間になる形で開催されている「メガホビEXPO」があります。これはメガハウスを中心にして、アルター、コトブキヤ、アニプレックスなど複数のメーカーが参加する展示会で、もう10年近く定期的に開催されているのです。さらにこの春からは、グッドスマイルカンパニーが同時に開催するようになりました。こちらではグッドスマイルカンパニー、マックスファクトリー、Phat!、FREEingなどの新作フィギュアの発表&展示が行われています。  この秋の「メガホビEXPO」は11月24日、「ワンホビギャラリー」は11月24、25日に秋葉原のイベントスペースで開催されましたが、主立ったメーカーのフィギュアがずらりと並び、フィギュアの最新状況を見ることが出来るイベントとなっていました。その中から、いくつかトピックをピックアップして最新のフィギュアトレンドを確認してみましょう。

【氷川教授の「アニメに歴史あり」】第10回 セル画に見た「アニメのホンモノ」

11月17日から三鷹の森ジブリ美術館の企画展示「映画を塗る仕事」がスタートした。これは故・高畑勲監督と宮崎駿監督の「色へのこだわり」を具体化した色彩設計の故・保田道世さんによる「仕上げ」の仕事を中心に紹介するものだ。内覧会で拝見したとき、やはり絵の具時代の「セル」には独特の価値が宿っているぞという感慨を新たにできた。  展示の中でも1971年ごろに両監督が「セル上の色で何が表現できるのか」で参考としたロシアの絵本作家であるイワン・ヤコヴレーヴィッチ・ピリービンの挿絵は非常に見ごたえがあった。森の中で手前奥に密生している木々に対し、個々の樹木は平面的に描かれているのに、彩度を低くした緑色をいくつも使い分けることで、夕暮れ時の表現としていたりする。特徴的な「水の塗り分け表現」など、宮崎アニメを通じて広く日本のスタンダードとなった様式のルーツが明確化されていて、刺激的であった。  会場ではこの発想を日本的に膨らました仕上げのテクニックについて、「光を塗る」などの表現で「色変え」の展示に大きなスペースを取っていて、非常に感銘を受けた。大学院におけるアニメ技法の講義では、そもそもの話として「絵の具を塗るから色が発生する」のではなく「光源が被写体に当たった反射光を空気と眼球のレンズを通して網膜にあたったものを色と認識する。それを絵の具で表現している」ということから教えている。  朝と昼と夕方と夜など、時刻によって光源が変化すれば反射光も変わるし、明暗のバランスも違ってくる。自然光(太陽光)6000ケルビンの色温度で設計された「ノーマル色」を、心理や映画全体の位置づけを考慮し、背景とのマッチングを重視して色を変えていく。その変え方を絵の具の選択の中から行うところに、芸術的な美意識が宿る。映画の印象が1コマずつ作画の積みかさねのトータルで決まるのと同じくらい、カットカットでバランス調整した色の積みかさねで、物語中の感情の残り方も決まるのである。