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【氷川教授の「アニメに歴史あり」】第15回 オリジナル音源への熱望感

アニメ音楽の「オリジナル劇伴(BGM)」に関する話を続けよう。自分がその存在を知ったのは、1974年放送の「宇宙戦艦ヤマト」からであった。桜台の制作スタジオ見学時、演出ルームにオープンリールの6ミリテープを見つけたのである。そこで初めて「毎回番組に流れる音楽に元(マスター)がある」という概念を知った。アニメ雑誌もなければ「音楽集」の商品もない時代、今では当たり前のことも、自分で発見せざるを得なかった。  セリフや効果音の重なっていない原音の存在を知り、何とか繰りかえし聞けるようにしたいと、必死で頼み込んでSONYのカセットデンスケを持ち込んでコピーさせていただいた。考えれば迷惑な話だが、それぐらい情熱があったのである。なぜ「デンスケ」かと言えば、プロ用音楽は全部ステレオだと思い込んでいたからだ。ところが驚いたことに、BGMはモノラル録音だった。テープ速度もレコード用の毎秒38センチではなく、半分の19センチである。それでもオリジナル音源を聞いてみると、「A-1」などMナンバーと呼ばれる分類記号と仮タイトルがついていて、映像にはない曲のラストがあったり、演奏ミスをテープ編集でつなぐ指示があるなど、驚くべき情報が多数あって感激した。

【氷川教授の「アニメに歴史あり」】第10回 セル画に見た「アニメのホンモノ」

11月17日から三鷹の森ジブリ美術館の企画展示「映画を塗る仕事」がスタートした。これは故・高畑勲監督と宮崎駿監督の「色へのこだわり」を具体化した色彩設計の故・保田道世さんによる「仕上げ」の仕事を中心に紹介するものだ。内覧会で拝見したとき、やはり絵の具時代の「セル」には独特の価値が宿っているぞという感慨を新たにできた。  展示の中でも1971年ごろに両監督が「セル上の色で何が表現できるのか」で参考としたロシアの絵本作家であるイワン・ヤコヴレーヴィッチ・ピリービンの挿絵は非常に見ごたえがあった。森の中で手前奥に密生している木々に対し、個々の樹木は平面的に描かれているのに、彩度を低くした緑色をいくつも使い分けることで、夕暮れ時の表現としていたりする。特徴的な「水の塗り分け表現」など、宮崎アニメを通じて広く日本のスタンダードとなった様式のルーツが明確化されていて、刺激的であった。  会場ではこの発想を日本的に膨らました仕上げのテクニックについて、「光を塗る」などの表現で「色変え」の展示に大きなスペースを取っていて、非常に感銘を受けた。大学院におけるアニメ技法の講義では、そもそもの話として「絵の具を塗るから色が発生する」のではなく「光源が被写体に当たった反射光を空気と眼球のレンズを通して網膜にあたったものを色と認識する。それを絵の具で表現している」ということから教えている。  朝と昼と夕方と夜など、時刻によって光源が変化すれば反射光も変わるし、明暗のバランスも違ってくる。自然光(太陽光)6000ケルビンの色温度で設計された「ノーマル色」を、心理や映画全体の位置づけを考慮し、背景とのマッチングを重視して色を変えていく。その変え方を絵の具の選択の中から行うところに、芸術的な美意識が宿る。映画の印象が1コマずつ作画の積みかさねのトータルで決まるのと同じくらい、カットカットでバランス調整した色の積みかさねで、物語中の感情の残り方も決まるのである。