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【藤津亮太の「新・主人公の条件」】第6回 「ゾイドワイルド」アラシ

揺るがないタイプの主人公というものがある。なにがあっても一直線。虚仮(こけ)の一念岩をも通す勢いでゴールめがけて突き進む。こういうシンプルでわかりやすい主人公像は、キッズアニメと相性がいい。いよいよ最終回も間近となった「ゾイドワイルド」のアラシもこのタイプの主人公だ。
 アラシは父親に影響を受けメカ生命体・ゾイドに憧れるようになった少年。アラシは、伝説のゾイド、ワイルドライガーと出会い、相棒となって、古大秘宝Zを探す旅に出る。そして、旅で出会った仲間たちとフリーダム団を結成し、各地で非道な振る舞いを行うデスメタル帝国と戦うことになる。
 アラシというキャラクターの根っこにあるのはゾイドへの友情。「ゾイドワイルド」のゾイドたちは、従来のゾイドよりもミリタリー色を薄め、生物感を強調して描かれている。「人機一体」がキーワードになっている通り、人とゾイドの絆が本作の縦糸の一つで、アラシとワイルドライガーはシリーズを通じて徐々に絆を深めていくよう描かれている。
 とはいえ、アラシがいくら一直線なキャラクターでも、それだけではキャラクターは魅力的にならない。まっすぐなキャラクターを描くには、そのまっすぐさを際ただたせるような“圧”が必要なのだ。“圧”にへこたれず、そのキャラクターが主人公らしさを貫いた時、キャラクターの個性が一層輝くのだ。そして「ゾイドワイルド」はポイントポイントで、しっかりとアラシに“圧”をかけていた。
 まず印象的なのは第13話「史上最狂ゾイド デスレックス」。このエピソードで、アラシの兄貴分であるベーコンが、デスメタル皇帝ギャラガーとの戦いで死んでしまう。アラシは、ベーコンと出会わなければ、ワイルドライガーとの向かい方を知ることもなかったし、フリーダム団を結成することもなかった。
 ベーコンは人気の出そうなキャラクターだけに「死んでしまったかと思われた」という展開かと思いきや、ベーコンの復活はなかった。だからこそアラシはベーコンの死と向かい合わざるを得なくなる。例えば、第43話「ゾイド狩り!男の約束」では、かつてベーコンと約束をした少年が登場し、アラシは少年にベーコンの死を告げなくてはならなくなる。それはアラシがベーコンから何を受け取ったかを自問することにもつながる。
 もうひとつ印象的なのが、第34話「揺らぐ…二人の絆」。ここではかつてデスメタル帝国との戦いで、ワイルドブラストを繰り返し、相棒のゾイドを疲弊させてしまった元兵士バーガーが登場する。バーガーの「ゾイドは不死身じゃねぇ。死ぬ時は死ぬんだ」というセリフがアラシに重く響く。この投げかけを踏まえた上で、物語は最終的に、アラシがワイルドライガーとの絆を信じ直すという形に着地する。
 「ゾイドワイルド」は基本的には明るくて楽しいシリーズだ。それだけに、ポイントで挿入されるすこしシビアなエピソードがスパイスになって、アラシというキャラクターの魅力を一層深くしているのだ。

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