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【前Qの「いいアニメを見にいこう」】第15回 「アニマンラスト」は必読だ/「LAIDBACKERS-レイドバッカーズ-」は魂のふるさと

売れてくれないと困る。そんなことを思った本って、これまであっただろうか。アニメーター、イラストレーターとして独創的な世界を描き続ける田中達之の「アニマンラスト アニメ・マンガ・イラストの作法」(復刊ドットコム)はそんな1冊だ。雑誌「季刊エス」で2009年から2014年にかけて連載されたインタビュー原稿を加筆・再構成したものだが、2019年の今もその内容はまったく古びていない。というか、古びるような内容ではない。現代において「絵を描く」ということの本質に迫るような金言が、これでもかとみっしり詰まっている本だから。

絵を描く人にとってはもちろんのこと、絵を「語る」人にとっても素晴らしく有意義な内容になっている。とりわけ、アニメの作画をいかにして見るか、語るかを考えたい人にとっては、貴重な導きの糸になるのではないか。たとえば「原画」。原画とは何か? と問われたならば、「動きのキーとなる絵」というのが、最も簡潔な説明だろう。「アニメーション用語辞典」(立東舎)の「原画」項の解説には、「【1】レイアウトや絵コンテに沿って、動きの起点と終点、重要な中間ポイントといった動きの要所=キーフレームを描く工程のこと。動きのタイミングや「間」も原画工程で決められてタイムシートに記入される。【2】上記【1】で描かれた絵のこと」とある(【3】として、いわゆる「原画マン」の意味での「原画」の解説があるが、割愛)。しかし「動きのキー」にしろ、「動きの起点と終点、重要な中間ポイント」にしろ、それがどういう内容の絵を指すのか、わかるだろうか。田中は本書でそれを「原画は基本的に『力の方向が変化した瞬間』を描くんだと思います」と説明する。この言葉には、思わず膝を打った。なるほど、そうした観点を踏まえてあらためて手元の原画集を開いてみると、まったく絵の見方が変わってくる。さらに田中は続く発言で、「動画」の役割、「全原画」のメリット・デメリットなどへも話を広げていくのだが、そこもとても啓発的だ。ほかにも重要な記述を拾っていくとキリがない。もう一点だけ触れると、本書の「パース」に関する説明は、一般的な技法書ではカバーされていない(と、管見の限りでは思う)、「不正確だが、絵として気持ちよく見えるパース」を極めて論理的に示したもの。小耳に挟んだところによると、アニメ業界で長年活躍する超実力派演出家が、本書の元になった連載時の内容を読んで「アニメの作画をする上で必要なパースの知識は、田中さんが全部説明している」というような感想を述べていたとのこと。詳細はぜひ、本書を手にとって、その目で確認してほしい。

本書がバカ売れし、その知識が広く共有されたならば、アニメを巡る言葉は極めて豊かになるだろう。そんな未来が訪れることを、強く、強く願うばかりである。いや、マジで。

……さて、ガラッと話題を変えて、作品紹介もひとつ。4月5日から2週間限定で劇場公開されるオリジナルアニメ「LAIDBACKERS-レイドバッカーズ-」。これ、(こういっては微妙に失礼だが)ちょっとした掘り出しもの。逆異世界転生……というか、ファンタジー世界から現代の京都にやってきた勇者たちが繰り広げる、ドタバタな日常の騒ぎを描く60分強の小品で、この短尺の中で、5人のヒロインそれぞれがどんなキャラクターかを印象づけ、その関係性を軸に、笑いあり、アクションあり、そしてほんのちょっぴり涙ありのエンタメストーリーを展開してみせる。その手際のよさ、まさに「匠」の技といった感じ。脚本・上江洲誠×監督・橋本裕之という名前に期待するものが、しっかりと味わえる。この名前にピンと来た人なら、劇場に走って損はないかと。個人的には、90年代OVA好きに見てほしい。「天地無用!」とか「神秘の世界エルハザード」とか「フォトン」とかが好きだった人……ようするに、アラフォーのオタ。僕と同世代のアナタに呼びかけているわけ。魂のふるさとが、そこにある……!

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